RS社はドイツ南部の静かな田舎街・ロイトリンゲン市にある個人経営の望遠鏡工房です。小規模ながらCNC等の工作機械が揃っており、ここで社長のラインハルト・シュルテン氏が、同社の主要製品であるトラベルドブソニアンを1台1台丹念に手作りしています。
日本では余りポピュラーではありませんが、ヨーロッパ、特にドイツやオランダでは折畳式の旅行用ドブソニアンは比較的メジャーな製品であり、複数のメーカーが競合状態にあります。RS社もそのひとつですが、全部品が小さな箱型に収まる設計力の高さと、この種のコンパクト・ドブの課題である前後バランスの問題を、ローコスト&シンプルな仕組みで解決している点が秀でており、いくつかの候補の中から笠井が絞り込んだメーカーのうちの1つとなりました。笠井は同社の製品をぜひ日本に紹介したく思い、2010年の夏から数回に渡ってシュルテン氏と直接会合し、最終的に日本での販売権を得るに至りました。
しかしながら、同社が欧州内で販売しているモデルをそのまま日本市場に持ち込むには少なからず問題がありました。まず、主要な部品の素材が木製であるため、多湿な日本で使用するには、無塗装や単純なニス塗りではなく、防湿・撥水性能の高い防水塗装をしっかりと施す必要があります。光軸修正が苦手なユーザーのための大きな斜鏡も、手先が器用で正確な調整ができる日本のマニアにとっては無用であり、むしろ斜鏡径を小さくして光学性能を向上させたほうが魅力的でしょう。競合他社との価格競争に伴うコストダウンのため、実用本位で見栄えの悪い安物の蝶ネジを多用していたり、斜鏡側面や裏面の黒塗りを省略していたり、台座側面の補強プレートを省略していたり、といった細かな問題点も多く、それらも全て改善しなければなりません。これらの仕様変更によりコストアップになっても、結果的にそのほうが日本のお客様にとって良いはずだ、との確信のもと、笠井はシュルテン氏に、日本市場向けカスタムバージョンの製作を依頼しました。そして出来上がったのが、REISEトラベルドブソニアン・シリーズです。
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